2 脚本の著作権について

①「 全国大会における脚本の上演区分について 」

各ブロック大会の推薦を経て上演される全国大会の脚本の上演区分について、次の通りとします。
6種の区分は、既成、潤色、構成、創作、脚色、翻案です。
 
(1)「既成(きせい)」
 ①既成脚本をそのまま上演するもの。
  ・上演許可を得ていること。
 ②既成脚本をカットして上演するもの。
  ・上演脚本に著作権がある場合、カットした部分を示した脚本を著作権者に示し、許可を得た上で、あわせて上演許可を得ていること。
 
(2)「潤色(じゅんしょく)」
 ①既成脚本の一部に改変を加えて上演するもの。
  ・既成脚本に著作権がある場合、改変した部分を示した脚本を著作権者に示し、許可を得た上 で、あわせて上演許可を得ていること。
  ・潤色者名を明記すること。
 
(3)「構成(こうせい)」
 ①既成脚本をもとに、場面の組み換え等の大きな変更を行い、上演するもの。
  ・既成脚本に著作権がある場合、構成した部分を示した脚本を著作権者に示し、許可を得た上で、あわせて上演許可を得ていること。
  ・構成者名を明記すること。
 
(4)「創作(そうさく)」 

 ①独自に創作して上演するもの。

  ・他の著作物の「表現」を使用(転載)したり、改変して使用したりする場合は、必ず 他の著作物を明記し、その著作物に著作権がある場合は必ず著作権者の許可を得ること。

   この場合、基本的には、(5)脚色 (6)翻案 扱いとする。

   ただし、著作権者の了解が得られた場合、もしくは著作権がない場合では、作者が 独自の創作物であると判断した場合、「創作」と表記することも可能である。 また、他の著作物の「表現」の使用が「引用」の範囲であって、引用の要件を満たし ている場合、その部分を「引用」扱いとし、全体を「創作」とする。

 

( 注意点 )

 「プロットやアイデア」は著作権の保護の対象外と考えられており、基本的に許可を 得る必要がありません。 ただし、「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる」場合 は、既存の著作物の許可を得なければならないとの判例もあります。 「プロットやアイデア」であっても、既成著作物から意図して多くを参考にして、著 作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるような可能性のある場合は、著作権者 の確認をとることを奨励します。

 

 ②生徒創作の場合、推薦された時点で、執筆した生徒が上演校に在籍していること。

 ③顧問創作の場合、推薦された時点で、執筆した顧問が上演校に在職していること。

 
(5)「脚色(きゃくしょく)」
 ①小説、物語、絵本、その他脚本以外の著作物を原作として、脚本に書き改めて上演するもの。
  ・原作とした著作物を明記すること。
  ・原作にした著作物に著作権がある場合、必ず著作権者の許可を得ていること。
 
(6)「翻案(ほんあん)」
 ①他の演劇脚本をもとに、新たに脚本化したものを上演するもの。
  ・原作とした著作物を明記すること。
  ・原作にした著作物に著作権がある場合、必ず著作権者の許可を得ていること。
 
 
本規定は、2010年4月3日より実施とする。
本規定は、2010年度全国高等学校演劇大会より適用する。
本規定は、2017年7月31日に一部改訂されています。
 

②「 全国大会における創作脚本対象について 」 

☆創作脚本賞の対象脚本
 
全国大会では、次のような基準で「創作脚本賞」の対象を定めています。これはあくまで全国大会の基準です。同様の賞が各地区・都府県・ブロックで定められている場合は、地域の実情にあわせ独自に基準を定めて下さい。
 
 全国大会の基準では、
 
「創作」、「脚色」、「翻案」 の3種を創作的作品群(創作脚本賞対象)
「既成」、「潤色」、「構成」 の3種を既成的作品群 (対象外)
                  という考え方をとっています。
 
 創作、脚色、翻案の3種の脚本に関しては、「創作脚本賞とするかの判断は、該当大会の審査員による。」こととして、創作脚本賞の対象としています。創作脚本が対象となるだけでなく、脚色や翻案された脚本も創作脚本賞の対象となっているのは、次のような理由からです。
 脚色や翻案された脚本は、著作権法上ニ次的著作物となるため、法律上においても「原作をもとに新たに創作された著作物」と考えられています。
 あらゆる種類の知的創作物において、「全くのゼロ」から誕生する作品はむしろ少なく、多くの作品は、多かれ少なかれ神話や古典、名も知れぬ伝承など過去の知的遺産をもとにつくり出されています。シェークスピアや歌舞伎にいたるまで、それまでの作品を原作にした多くの名作がつくられているのは事実であり、著作権の本来のあり方を考えていくと、原作となる著作物があるからといって、その脚本の「創作性」を認めないという見解には無理があります。こうした大きな歴史的な経緯や、現行法による解釈から判断し、全国大会では、「創作」だけでなく「脚色」・「翻案」脚本に関しても創作脚本賞の対象としています。
既成、潤色、構成脚本に関しては、創作脚本賞の対象外としています。
 
(2009年の第2回理事会にて、「創作」・「脚色」・「翻案」が創作脚本賞の対象となることが承認されました。「2010年第56回全国大会(宮崎大会)」から、この基準が適用されました。)
 

③「 上演許可の取得と上演料について 」

☆ 既成的作品群の上演許可取得について
 
 既成・潤色・構成作品(既成的作品群)に関しては、「上演許可」を得ることが、上演にするにあったて必ず必要になります。これは、高校演劇独自のルールのひとつです。
 
 本来、著作権法では、これまで述べてきたように「著作権の制限」という例外が認められています。無料で公演し条件を満たしている場合、著作権法三十八条(営利を目的としない上演等)に該当し「著作権の制限」が適用され、著作権者の許可なしに、「著作物」を利用することが可能になります。
 
高校演劇では、ほとんどの大会が条件を満たした無料公演の形で行われています。つまり、高校演劇の無料大会上演に関しては、本来基本的に許可はいらないというのが、著作権法の基本的な考え方です。
 では、なぜ「上演許可」を取るという独自のルールが定められてきたのでしょうか。
  確かに、無料公演では「財産権」のうち上演権・演奏権は「著作権の制限の対象となり、上演許可を取る必要ないように思えます。ただし、あくまでも、上演権や演奏権のみが対象であり、複製権や二次的創作物の創作権などは制限されません。
 また、著作権者が持っているもうひとつの権利である「著作者人格権」は、無料公演のケースでも制限されることはなく、必ず著作者の許可を取ることが必要になります。
 高校演劇では、全国大会の上演時間が60分以内と定められているため、各ブロック、県、地区大会でも同様の規則を定めている場合がほとんどです。
 60分以内で上演するためには、脚本をカットしたり一部改変したりする作業が必要になります。また、役者の男女比や人数の問題から、語尾を変えたり、脚本をカットしたりする必要も生じてきます。
 つまり、ほとんどのケースで脚本を改変する場合が多いため、「改変の許可を含めた上演許可を取る必要」が生じるのです。
 そこで、高校演劇の大会では、無料公演であってもきちんと「上演許可」を取ることが独自のルールとして定められてきたのです。
 二次的著作物に関しては、次のような対応をとることになっています。本来、無料公演の場合、著作権の制限により自由に上演できるのが原則ですので、二次的著作物を全く改変せずに上演する場合に関しては、原作者までさかのぼって許可を取る必要はありません二次的著作物の著作権者から「上演許可」を受けることで高校演劇独自のルールは対応済みです。
ただし、二次的著作物に何らかの改変を加える場合は、「著作者人格権」にかかわってきますので、著作権の制限はなくなります。二次的著作物に改変を加える場合には、必ず二次的著作物の著作権者および原作者からの改変の許可が必要になります。
 
☆ 上演料の支払いについて
 
 また、高校演劇では、上演許可を取ると同時に上演料を支払うことになっていますが、これは、社団法人日本演劇協会が、アマチュア演劇公演の料金について以下のように定められていることが根拠になっています。(以下に参考資料として掲示してあります。)
 高校生の無料公演に関しては、上演時間に関係なく、上演1回につき5,000円と明記されています。法的な根拠があるわけではありませんが、慣習として、多くの劇作家の方がたの間に定着しています。
 ただし、例外もありますし、海外の著作物に関してはこうした慣習が定着しているわけではありませんので、上演料については、きちんと確認することが必要です。
国内の例外としては、上演料はいらないとおっしゃる方や、上演料は10,000円だが、何度上演してもかまわない(地区、都府県、ブロック、全国、が1回の許可ですべて上演可)という方針を定めている劇団もあります。いずれにせよ、きちんと確認することが大切です。
 
 参考Ⅰ 上演許可にともなう上演料
 
社団法人日本演劇協会  公共(アマチュア)演劇上演料金規定
 
入場料/上演時間1時間30分以内1時間31分以上
無料10,000円20,000円
2,000円以内25,000円35,000円
2,001円以上協 議協 議
 
*入場無料の場合は、回数・入場者数にかかわりなしとする。
 有料の場合のみ、入場者数 300人までを基本料金とし、300人を越え、 200人増す毎に50%増額する。
*翻訳脚本の場合も同様とする。
*以上はアマチュア演劇の協定であり、プロ製作による場合は、入場料に如何に拘らず協議事項とする。
*尚、高校演劇に関しては(入場無料の場合)上演時間にかかわりなく上演1回につき5000円とする。
 
*当規定は1993年(平成5年)5月1日より実施する。
 こうした、社団法人日本演劇協会の規定に基づき、上演料は、一回の公演につき、5,000円という上演料が必要という形が慣習として定着してきました。
 もちろん有料公演の場合、5,000円という基準は関係なくなります。著作権者の方と相談して支払う著作権料を決めて下さい

④「 上演許可の取り方 」

☆ 上演許可取得の手順
 
上演予定の脚本が既成作品構成・潤色含む)である場合
              ▼
著作権の有無の確認(外国作品の翻訳されている脚本を使用する場合、翻訳者にも著作権あり。翻訳者の著作権の有無も必ず確認)
              ▼
*著作権が消滅していれば自由に利用 → 上演へ
*著作権がある場合、関係者に連絡し上演許可収得の交渉
              ▼
A.著作権者と直接連絡が取れる場合
 
上演主旨説明、上演許可の条件確認(有効期限、範囲、上演料など)
脚本をカット・改変する場合はその可否の確認、改変可であれば、改変内容の検討方法、条件などの確認(後日、カット・改変した脚本を著作者に送付、上演許可の最終判断をしてもらうことが高校演劇では一般的
③上演許可をもらえそうなら上演許可の取り方の確認
上演許可願い上演許可書に必要事項を記入して、切手を貼った返信用封筒とともに送付、上演料を現金書留等で送付、脚本が改変されている場合は改変脚本を送付、この方法が高校演劇では一般的)
 
B.出版社と連絡が取れる場合、劇団・事務所と連絡が取れる場合
 
出版社、劇団等が上演許可の代行をしている
 → Aと同様の確認をしたうえその指示に従う。
*著作権者の連絡先を教えてもらう。 → Aへ
              ▼
 この時点で著作権者(または代行者)と連絡がとれない場合、改変が認められず上演許可がとれそうも場合等は、上演を断念し、他の脚本を検討。
 インターネット等で著作権フリーと明記している脚本に関しても、著作権者と直接連絡を取れない場合は上演断念。(脚本内容に著作権法に違反する内容が含まれていた場合等、直接責任を負える方が不明なため)
              ▼
 著作権者(または代行者)から上演許可が出してもらえそうであれば、確認した方法で対応。(著作者が改変された脚本を確認し改変内容を承諾しない場合、この段階で上演許可がおりないこともあり得ます。)
              ▼
           上演許可書が届く
 
☆ 上演許可を取る上での注意事項 Ⅰ
 
 上演許可の取り方について、しばしば著作権者の方から苦情が寄せられます。大会の直前になって、「明日までに許可がないと困る」、「とにかく急いで送って欲しい」などの交渉は絶対に避けて下さい。あくまで上演を許可するかどうかの権利は著作権者が持っているのであり、許可されることを前提にしてはいけません。相手の都合も考えずに、急いで対応するよう要求することもあまりにも常識をはずれた行為です。
 そもそも、上演許可が取れることを確認できなければ、練習を開始することはできないはずです。練習開始前に上演許可の内諾を取ることが原則ですが、遅くとも、大会プログラム製作段階までには、上演許可書が届いていることが必要です。
 時間のゆとりを持ち、誠意を持って上演許可を出してもらう交渉をすることを心がけて下さい。ひとつの学校、ひとりの方の失礼な行為により、特定の著作者の方が、「もう高校演劇に対しては許可を出さない」との考えを持たれたりしたら、高校演劇界にとって大きな損失になります。末永く高校演劇が発展していけるよう、後輩たちの脚本の選択肢をせばめないように上演許可の取り方には細心の注意を払って下さい。
 劇作家協会では、なるべく上演許可は出していこうとの方向で考えて下さっています。高校演劇との信頼関係が崩れることのないよう細心の注意を払っていただきたいと思います。
 
 
☆ 上演許可を取る上での注意事項 Ⅱ
 
 上演許可やその他の許可に関しては、書面で交わすことが基本になっています。特に大会に参加する場合は書面で提出する必要がある場合がほとんどですので、原則として書面での許可を得て下さい。
 しかし、著作権者の側が口頭でかまわないといっているのに無理に文章を出してもらうように交渉し、かえって、手間をとらせたり、心象を害したりすることは本末転倒です。口頭でも契約は成立しますので、やむを得ない場合は柔軟な対応することも必要です。
また、「改変」に関しても著作者によっては、「自由に改変して構わない。改変した脚本は送らなくても良い。」という考えをお持ちの方もいらっしゃいます。こうした場合も、無理に脚本を送ることはかえって相手の方に失礼にあたります。こうした場合も、許可取得者が「口頭で許可を得ている旨の文章」を作成して書面のかわりとするなど柔軟な対応することも必要です。
 
 大切なことは、著作権者と意思疎通がしっかりとれており、明確に許可が取れていることです。あまりに形式主義におちいることは避けていただきたいと思います。

⑤「 創作・脚色・翻案脚本と利用許可について 」

☆ 原作にした作品の利用許可
 
 他者の著作物を原作にして二次的著作物をつくりだす場合、著作権のある著作物を原作にしているのであれば、必ず著作権者の許可が必要となります。
 特に、著作権のある著作物を原作にしながら、著作権者の承可を得ず、あたかも自らが新たにつくり出したような形で「創作」として発表した場合、それは「盗作」とみなされて、最も悪質な著作権の侵害事例となってしまうことが考えられます。
 過去の全国大会等では、こうした事例であると判断され、記録から抹消されてしまった学校もありました。こうした行為は対象となった学校も大きな打撃を受けるだけでなく、高校演劇全体の著作権者からの信頼を大きく損なうことにもつながります。
 
 「創作」するにあたって、原作にした著作権のある著作物がある場合、必ず著作権者の許可を得て下さい。
 
 また「脚色・翻案など」原作をもとにして二次的著作物をつくり出す場合も、原作に著作権がある場合、必ず著作権者の許可を得て下さい。
 既成(潤色・構成含む)脚本用の「上演許可願い」「上演許可書」のような雛型(ひながた)は特にありませんが、内容に応じた適切な「利用許可」を書面にて取得して下さい。

 ☆ 原作にした作品の明記

 原作にした作品がある場合、脚本にもその旨を明記して下さい。表記場所、表記内容、表記方法などについては、著作権者と良く相談してトラブルにならないような表記をすることが大切です。
 

⑥「 引用について 」

☆ 引用の許可取得について
 
 「引用」とは、脚本を創作したりするにあたって、どうしても自分の言葉で表現できず、他者の著作物の表現が最もふさわしい場合、きちんと「出所を明示」して利用させてもらうことを意味します。例えば、学校が荒れている現実を、関連した書物から数行引用し、セリフとして登場人物に語らせたり、登場人物の心情を、有名な詩の一部を引用し、セリフとして語らせたりするのが、「引用」のあり方です。
 著作権法では、「引用」に関しては「公正な慣行に合致するもので、目的上正当な範囲内」であれば、営利目的であっても利用できる」、つまり「著作権者の許可なく利用できる」規定になっています。「著作権の制限」の対象のひとつです。
高校演劇においても、「引用」は以下の条件を良く理解し、その条件を守った上であれば、「著作権者の許可なく利用できる」ことになっています。(2010年8月2日の第2回全国理事会にて承認されました。それまでは、高校演劇独自のルールとして、必ず許可が必要でした。)
 
 では、守るべき条件とは何でしょうか?
 
 演劇の脚本における「引用」は、単純に学術論文などで自説を強化するための「引用」と同様に考えてはいけない難しい面があります。脚本における「引用」には、文芸的な内容の著作物を「引用」する場合もでてきますが、特に慎重な扱いが必要です。
 
 特に、文芸的な作品の「引用」を多用することは、主従が逆転することにもなりかねず、必要最低限の範囲で利用することを念頭におかなければなりません。最も注意しなければならないのは、小説や他者の脚本などから、何度も「引用」という方法を取り、他者の著作物を使いながら創作と名乗るような行為です。小説や他者の脚本などの著作物を原作にして新たなる創作物をつくり出す場合は、著作権のある著作物については、必ず著作権者の許可が必要になります。高校演劇の規定でも、小説や他者の脚本などを原作にしている場合は、脚色(または翻案)といった扱いになり、著作権のある作品については、必ず著作権者の許可が必要になります。あくまでも、「引用」は、必要最低限の利用で、あくまでも作品の補助的利用に限るということです。
 
さらに、著作権法では細かく「引用」についての注意事項が定められています。
 
  「引用」する場合の注意事項
 
ア・すでに公表された著作物であること。
イ・「公正な慣行」に合致すること。
ウ・報道・批評・研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること。
エ・引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること。
オ・「本文」と「引用部分」が明らかに区別できること。例『濁点をつける』『かぎかっこを使用する』 など
カ・引用を行なう必然性があること 。
キ・「出所の明示」がなされていること。
 
 引用するにあたっては、必ず上記の条件を守って下さい。特に「出所を明示すること」は最も重要です。著作権法では、「親告罪」が基本なのですが、「出所の明示」は例外です。著作権法では、明示することを怠るとそれだけで、明示義務違反になってしまいます。
 
 「引用」するにあたっては、細心の注意を払い、上記の条件や注意事項を厳守した上で行って下さい。
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