台風の中!

井口時次郎
 徳島鳴門は、台風でした。実は四国に行くのは初めてで、よく台風が来るところだなという認識はあったのですが、まさか自分が四国で台風に見舞われようとは夢にも思っていませんでした。大会二日目、ホテルで待機しながらテレビを見ると、バスも電車も運休。えー、取り残されてんじゃん!と思ったのをはっきりと覚えています。上演校のみなさんは本当に大変だったことと思います。ひょっとしてひょっとしたら上演そのものができないのではないだろうかという思いの中、それでも緊張の糸を切ることなく最終日の七校はすばらしい舞台を見せてくれました。もちろん、初日の四校もいろんなプレッシャーの中の上演だったろうと思います。本当にお疲れさまでした。それでは、各校別に感想を述べさせていただきます。

『飛び人〜とびびと〜』
 全国大会の幕を開けたのは大変元気のいい作品でした。会場内の音の響き方のせいもあって台詞が聞きづらくなってしまい、本来ならば客席と一体になって盛り上がっていくはずが、やや舞台と客席の間に距離を感じてしまう場面もありましたが、それぞれがそれぞれにものすごいテンションでしゃべる姿に圧倒されました。

『チキン・カレー』
 非常に丁寧に練られた脚本であると感じました。カレーを作るという行為を通して、孫娘と祖母の世代間の意識の違いやそれぞれの心の痛み、さらには舞台には登場しない母親や死んでしまった父親の事なども観ている側が想像できるとても豊かな作品となっていました。また少ない部員の中でキャスト・スタッフともにチームワークが発揮されていてすがすがしさを感じました。

『超 正義の人』
 舞台装置の面ではオープニングのラーメン屋、教室の窓や廊下の壁などが時間や手間を惜しまず作られているのが印象的でした。演技の面でも個々の力量も高いがそれ以上に各人が自分の役割を十分理解し舞台に臨んでいるように感じました。キャスト・スタッフ双方の日々の部活動の成果がしっかりと出ていた作品だと思います。

『幽霊部員はここにいる』
 いわゆる「幽霊部員」と、「部員の幽霊」をからませるアイデアの中に、部活動や学校行事など何事にも真剣に取り組むことのない今の高校生を的確に描いた作品だったと思います。ラストについては、そんなに簡単に幽霊部員達が前向きになっていいのかという感もありますが、教員としては「そうであってほしい」という思いを持つのも非常によくわかるなぁと感じました。

「Is-アイズ」
 高校生に限らず、おそらく誰にでもいるであろう別の自分。楽天的な自分、逆に悲観的な自分。男性的な自分に女性的な自分。気長な自分、短気な自分。そういった人間の持つ多面性をそのまま舞台上に表すという手法が今回の舞台では効果的でした。自分の思いをそのまま他人に伝えることのできない主人公をリア王のコーデリアになぞらえたことでも作品に深みがでてよかったと思います。

『おばあちゃんのボタン』
 広島に原爆が投下された前後の物語と、それを語るおばあちゃんの思い、そして、それを合唱にしようとする現代の高校生という、言ってみればありがちな設定ではあるが、それを精一杯演じている姿がすばらしかったと思います。  ただ、個人的には舞台で演じられている高校生と現実の高校生の間に大きな違いを感じました。まさに今の広島の高校生が原爆についてどう感じているのかが観たいと思ったのは私だけでしょうか。

「ライアー!ライアー!ライアー!」
 大変個性的なキャラクター達が、しっかりと自分の役割を理解しきわめて統制のとれた舞台を展開していました。セットも丁寧に作られており、演出が大変行き届いているという印象を持ちました。会場の反応もよく、特に前半は楽しく観ることができました。

『子供の子供と子供たち』
 高校生の妊娠をまさに正面から扱い、担任や友人たち、それから舞台には登場しないが主人公の母親など、それぞれの思いが伝わってくるあたたかい作品でした。しかし、高校生が妊娠・出産を経験しながらそのまま在学し、子供を連れて登校するという設定はまだまだ現実の学校現場では考えにくいことでしょう。であれば、こうあってほしいという理想像として描く方向になると思いますが今回の舞台からはそこまでは伝わってこなかったのが残念でした。

『扉の向こうに』
 幕開けから大変小気味よく展開する気持ちのいい舞台であったと思います。時間の経過を早回しで展開させたり、写真を撮るようにストップモーションで見せたりといったところはよくある手法ではありますが、練習量とノリのよさで一気に見せてしまう役者の力量を感じました。主人公のどうしようもない閉塞感、最後の最後で神頼みになってしまうところにも人間の弱さがきっちりと表現されていたように思います。

『ロック』
 この作品は、今の高校生の姿を過不足なく描いている点でとても考えさせられるものでした。最後に主人公が一人でクラップを叩くシーンでは、現代日本の至る所でいろんな形で、こうした見えない、聞こえないクラップが叩かれているのかもしれないと痛感しました。また、登場人物個々が能動的に舞台に立っており、いわゆる「やらされている感」を感じない点に大変好感を持ちました。

『てんぷら』 
 「たんぽぽとかずのこ」という作品を元に作られたこの作品は、上演時間約六十分間が日常的ではあるがとても濃密に描かれた作品でした。演技が大げさに誇張されたり登場人物が戯画化されることもなく、実に丁寧に心理描写を根気よく重ねていく構成が、ささいな日常をスリリングな舞台に仕上げていたと思います。十一本の最後を飾るにふさわしい作品でした。

 以上、中にはやや厳しいコメントを書かせてもらった作品もありますがやはり全国大会です。すべての作品がそれぞれに本当にすばらしかったと思います。上演校のみなさんの気合いや心意気がビシビシ伝わってきました。いいものを観せていただきありがとうございました。最後に、台風直撃、三日間の大会日程のうち二日目を回避しなければならないという過酷な状況の中、大会関係者の方々や顧問の先生方、そして何より大会を常に笑顔で運営してくれた徳島県の生徒実行委員のみなさんに心から拍手を送りたいと思います。
 お疲れさまでした!
(元 藤花学園尾山台高校教諭)