◆ 舞台美術講評と舞台図 ◆

石井 強司
●『飛び人〜とびびと〜』舞台全体を白の基調色で構成している。場面設定は学校と家庭が主。それは母の死後に残された娘の心象風景でもある。装置は左右対称の形を選び、終景での飛翔のイメージに有効であった。透明感のある照明変化や、暗転のかわりのブルー転も舞台の流れを際立たせた。

●『チキン・カレー』公営住宅のダイニングキッチン。正面下手にガス台、水道、調理台など。上手に食堂テーブルとイス。小道具だけでシンプルな舞台にしたのは、ひたすらカレーを作る戯曲設定の面白さにあるからで、大道具の必要性は特に感じられなかった。温かく爽やかな舞台だ。

●『超 正義の人』生徒指導室が主舞台。それを導入部のラーメン屋の装置で巧みに隠している。現実的な日常のドラマであり装置もリアル。登場人物の動きにもバランス良く対応していて、特に指導室と廊下の使い方などドラマを脹らませるデザインだ。他のスタッフプランも的確な表現力を持った。

●『幽霊部員はここにいる』部員の再生を主軸に考えてファンタジックな空間作り。雑多な稽古場のイメージを、トラス柱や太い鎖などで大胆に表現しようという独自のデザインが光る。広めな床面を強い照明のエリアによって区切り、演技スペースを確かなものとするなどデザインが主張した舞台。

●『Is-アイズ』学校や家庭を中心に複数の場面がテンポよく展開された。多場面での演技の共通エリアをどうデザインするかがポイントとなるが、抽象性を持たせた左右の高低差のある基本台を置くことで、人物の出入や動きがより明確になった。衣裳などビジュアルなデザインもバランスが良い。

●『おばあちゃんのボタン』ヒロシマという大きなテーマを正攻法で形象化している。序景の灯ろう流しも客席を使って美しく、観る者を鎮魂の世界へといざなう。歴史の中の事実を舞台という『作りモノ』の世界にどう再構築すべきかが大切。川辺や学校、田舎など過去と現在をワンポイントの装置で表現。ドームの作りも秀逸。

●『ライアー!ライアー!ライアー!』日常的な教室という場を、この芝居のためのイメージに大胆に創り変えた。ポップで明るい空間の造形力が斬新だ。戯曲のテーマとなる『嘘』をフィジカルな舌や口をモチーフにデザイン化した装置は、ホリやバックライトにも対応して明るく楽しい舞台となった。

●『子供の子供と子供たち』舞台いっぱいに下手から生物準備室、教室、トイレの三場面を同時に組み上げた装置。その造形力には確かなものがあり、細部にもこだわった写実性も水準以上だ。空間を三ヶ所にすることで、ドラマの中軸が拡散されてしまう事も否定できない。ドラマの展開の中で留意したい。

●『扉の向こうに』校舎から離れた古い倉庫。校庭の緑に囲まれた倉庫の中には、一種のシェルターの役目を持った象徴的な空間としてデザインされている。どこか懐かしく心の癒される温かみのある装置だ。倉庫という閉ざされた空間と外部との対比も、床面の色分けや照明の効果で清々しい。

●『ロック』新しい自分をロックダンスという肉体を通して見出そうという斬新な舞台づくりだ。作りもの的な装置を極力排除したことで等身大な、まさにフィジカルな空間を生む結果となった。ショーアップさせがちなダンスシーンなども抑制された照明が、逆にドラマに深みを与えていた。作意のないリアリティのある舞台。

●『てんぷら』寮の一室という特徴的なものの少ない空間でのシチュエーションドラマだが、部屋は一枚のドアを中心に白い壁面だけでシンプルに構成されている。壁は劇場空間の広さを感じさせないよう二面飾りで工夫している。引越し荷物が片づけられてゆく事でドラマが完成する。計算された舞台づくりだ。      
(舞台美術家)