嵐の徳島大会独断的に感じたことを
中村 紀子
おこがましくも全国大会審査員という大役をお引き受けし、それがまた記念すべき五十回大会と聞いて不安と緊張プラス恐怖心を持って徳島入りした。久しぶりの高校演劇は私の心配をはねのけてくれるくらい新鮮で刺激的だった。学校現場にいて生徒と一緒に芝居作りをしていた時の方がかなりヒネクレて醒めた目で高校演劇を観ていたように思う。現場を離れた今の方が高校生の芝居に素直に感動し共感し楽しんで観ている私であった。そして、そうだった、私は高校演劇に完成された舞台ではなく可能性ある舞台を求めていたそのことを思い出した。
『飛び人〜とびびと〜』
緊張高まる中気合いを入れて舞台を飛びまわる魅力的な役者たち、その懸命さがひしひしと伝わってきた。ラストの白い舞台、鳥になって空を自由に飛びまわるシーンも美しかった。しかし対処できない現実にもがく彼女たちの苦しみがドラマの中でうまく伝わってこなかったぶん、ラストシーンもとってつけたようなものに感じてしまったのは残念。舞台と客席に距離があったのも言葉が聞こえにくかったせい?それだけが原因だろうか・・・。
『チキン・カレー』
個人的に好きな作品。カレー作りを教えることで、自らの力が減退してきた祖母が持っている力を振りしぼって可能性あふれる孫娘に希望を託す。伝えたいことを言葉で説明せずにいかにして演劇で立ち上がらせるか、演劇ならではの手法に賭けたこの作品。大きな舞台で役者たちはよく健闘していたが、もう少し小さな舞台で上演させてあげたかった。そうすればカレーのにおいがただよってきたかもしれない。
『超 正義の人』
大変見ごたえあった作品。リアルで丁寧で本格的な装置も照明の使い方もこまやかな演出も達者な役者たちもお見事。日々のクラブ活動の努力の結果までもが伝わってくる出色の作品。ただラストの弱さ、タケシの涙の感動が伝わってこない。「正義の人よ、がんばれー」となる訴求力は足りなかった。ラストは少し強引ではなかったかしら?思いきって脚本の深みが足りなかったと言ってしまおう、あまりの完成度に少し癪だから。
『幽霊部員はここにいる』
幕が上がりインパクトある舞台装置とヴァイオリンを弾く女子生徒に思わず惹きつけられてしまった。本物の幽霊と幽霊部員たちの対話を通して問題を共有させ、劇中劇によって現在・過去・未来を交錯させて展開させていくという仕組まれた構成。ただ先が読めるストーリーのうえ、舞台をフルに使わず同じ箇所での芝居、役者の声色テンポも殆ど同じ、単調な舞台になってしまったのは残念。インパクトある舞台装置の「くさり」も効果として生かされていなかったのでは・・・。
「Is-アイズ」
舞台のテンポもリズムも良く、役者も生き生きして魅力的だった。言葉で思いを伝えられないサチの悩みをコロス化することで表現する手法をとっていたわりには、コロス化されたことがあまり生かされていなかったのではないだろうか?全体的に言葉に頼る比重が重い舞台で結果的にサチの悩みも独りよがりの印象をもつものになってしまった。それに本来サチとリア王と重ねるには少し無理があったのでは・・・。
『おばあちゃんのボタン』
安心した構成で、登場人物も類型的、みんながいい人すぎて不自然、枠を越えてもっと過剰にしてみたら?なんて思いをはねのけられるくらい見事に訓練された役者たちの懸命でまっすぐな演技に深く感動してしまった。伝えようとしていることは戦争の恐ろしさよりも原爆の悲惨さよりも、戦争を知らない私たちは知らないからこそもっと知る努力をしなければならないのではないか、そんな叫びだったのではないだろうか。ストレートに直球で勝負してきた舞台はかえって新鮮だった。
「ライアー!ライアー!ライアー!」
舞台のテンポが良く随所に笑いありダンスありコミカルで精彩のある舞台。二枚舌の装置も楽しいし、役者たちもうまい。ラストもおもしろい。「高校演劇は高校生のための演劇よ」と叫ぶパワーまでもが伝わってくる。ただただもう少し劇に深みが欲しかった。正直者がうそつきに相対化されていく構成、「正直者もうそつきの中にいると埋もれていく」現代の人間関係のありさまを見せてくれているはずなのに・・・、惜しい。
『子供の子供と子供たち』
間口いっぱいに丁寧に本格的に作られたリアルな装置には迫力があった。ただ教室のセットが芝居の効果に貢献されていなくて残念。教師役もリアルで達者な演技。しかしみんながみんなカッコ良すぎてしまった。「産みなさい」と言えてしまう教師、友だちの出産をみんなで応援しようとする仲間たち、果たしてお芝居としてはどうなのだろうか。リアリティの無さに正直共感できないまま取り残されてしまった。
『扉の向こうに』
舞台のテンポが良く、達者な役者たちは笑いをとる間も上手でおもしろかった。四人の生徒が「自分の居場所探し」という問題を共有しドラマを展開させていく構成だが、後半部分言葉に頼る比重が大きくなっていったのは残念。あれだけみんなが「居場所」「居場所」と言い出すといかがなものか?伝えたいことがらは極力少なく最後まで可笑しくそして哀しく突っ走ってほしかった。業務員のトメさんも効果的な役割を果たしていなかったように思った。
『ロック』
役者たちのダンスはかなりうまい。練習を積み重ねてきた努力の結果までもが伝わってくる若い活気のある舞台だった。ダンスだけで芝居は作れないか?その実験的な姿勢とダンスで客席を魅了したその成果はおおいにかうが、「自分の中から革命を起こしたい」「自分のロックをはずせよ」という最後の結論を口で言わずどうしたら観客に伝わるか、もう少しのところをねばり強く考える必要があったのではないだろうか。
『てんぷら』
進行していくドラマをそれはそれで楽しみながらもう一つの何かが伝わってくる、そんな芝居が個人的には好きでこの作品はそんな芝居だった。わかりやすい説明を一切しようとしない潔さが気持ちいい。日常会話のたくさんのセリフの中からほのかな笑いと切なさが浮かびあがってくる。少し大袈裟に言ってしまうなら現代の人間の弱さ、人間の屈折した心情までもが伝わってくる作品であった。ラストはいっしょになって泣いてしまった。
(元 兵庫県立日高高校演劇部顧問)