大会審査結果
 第五十九回全国高等学校演劇大会は、長崎県長崎市の長崎市公会堂を会場として、八月二日から四日にかけて行われました。九州では第五十六回宮崎大会に次ぐ開催です。長崎県実行委員会の顧問、生徒の皆さんは、宮崎、福島(香川)、富山の各大会を視察・研究し、特にこの一年は、それまで経験したことのない膨大な業務を、一つ一つ真摯に取り組んでこの日を迎えました。おかげで総合開会式、舞台リハーサル、本番、講評委員会活動、講習会、開閉会式など全ての催しが順調に進み、大きな成果を残すことができました。また大変多くの高校演劇関係者と一般観客が全国から集り、炎天下、開場を前に長い列を作りました。それでも約千七百というキャパシティのおかげで、全員入場していただくことができました。
 さて、昨年の本欄に事務局長のコメントとして「震災後、私達は演劇で何を表現するのか、演劇をすることの意味は何なのか、そのこととしっかり向き合ってきました。」とありました。今年の上演作品十二本にもそれはしっかり継承されています。各作品の問題意識は極めて高く、特に、生徒たちが置かれている、政治的・社会的な問題にまでつっこむ生徒創作が複数登場したのは特筆すべきことでした。
 今回の審査員の先生方は、高校演劇にとても深い関心を持っていただいている方々です。篠ア光正氏は全国大会ではおなじみの先生ですが、二年前の福島大会(東日本大震災復興支援香川大会)でも審査をしていただきました。劇作家の平田オリザ氏は、過去三回の全国大会で審査した作品を、まるで今観たかのように語る方でした。松井るみ氏は舞台美術家として大活躍中ですが、高校演劇に対しても大変有意義なアドバイスをしていただきました。朝日新聞の今村 修氏はプロの演劇に大変詳しい方です。高森 章氏、清野和男氏、乳井有史氏は紹介するまでもなく、我々演劇部顧問の大先輩です。そんな七名の先生方に、上演日ごとに、上演終了後、長時間に渡って審査・講評をしていただきました。さまざまな観点からの意見、講評をまとめていくと、その舞台のもつ魅力がどんどん浮かび上がってきて、さすがに全国大会に出場する作品であると改めて思わされました。
 大会最終日、その日上演の二校の審査・講評終了後、各審査員に優秀と思われる四作品を、順位を付けずにあげていただきました。その結果が別表です。満票を得た北海道北見北斗、六票の長野県丸子修学館、沖縄県立八重山、四票の大阪市立鶴見商業を、優秀校以上の四校とすることに異論はありませんでした。次のこの四校の中で、最優秀にどこを推すかと言うところで丸子修学館、鶴見商業、八重山の三校で意見が分かれました。そのため、さらに議論を進め、小中と朝鮮学校に通った作者(昨年度生徒)が自分の経験をもとに、演劇と言う手法を通して、問題点を真正面から「これでもか」と主張して、観る側にそれを問う舞台を作った鶴見商業と、離島の問題、政治問題などを絡めながらも地元ネタを各所に散りばめ、明るく楽しく、観客を大いに盛り上げた八重山の二校に絞られました。最後は二校で投票を行い、僅差で鶴見商業を最優秀とすることに決まりました。両校の作品とも生徒創作で、共に教室劇、しかも文化祭での出し物を決める過程を描くと言う似たプロットをもっています。きっとこの作品を書き始めたのがそういう時期だったのでしょう。しかし、表現方法においては極めて対照的な舞台でありました。
 満票を得た北見北斗の舞台は、マイナーな落語研究会を舞台に、恋と友情をさわやかに描きました。脚本もよく練られていて、伏線も張られており、生徒・顧問創作のお手本という声もあがりました。
 長野県丸子修学館は、フランツ・カフカのいくつかの作品を組み合わせて構成し、カフカの人生、そして演じている自分たちをもそこに投影していくと言った、大胆かつ巧みな手法で審査員の間でも大きな話題になりました。
 この四校の中で、初回得票数が最も少ない鶴見商業が結果として最優秀になったのは、初回の票には各審査員の中での順位が反映されていないからで、この初回得票数と最終結果の逆転は過去に何度もあったことを申し添えておきます。
 次に創作脚本賞の選考に移りました。これも最初に投票していただいたところ、丸子修学館、鶴見商業、八重山の三校が挙がりました。議論を重ね、最終の投票で、こちらも鶴見商業を推すことになりました。舞台美術賞は、丸子修学館、栃木県立さくら清修、東京都立東が候補となりました。その中で、舞台美術家の松井るみ氏が「少ない舞台装置でありながら高校演劇の可能性を感じさせる舞台作り」と評した、都立東が舞台美術賞を得ることになりました。今年度創設された内木文英賞に関しては、どのような学校をその賞の対象とすべきか議論をした後、「顧問と生徒たちがその作品をよく理解し、意見を積み重ねて舞台を創り上げた」さくら清修がふさわしいということになり、栄えある第一回目の賞が同校に授与されることになりました。
 今大会の選考についてはかなり時間がかかりましたが、それだけ評価においては拮抗した舞台が多かったということを表しています。実に多くの時間を、審査に費やしていただきました。審査員の先生方、ありがとうございました。また上演校の皆さんにとっては、最終日の講評の内容だけでは十分でなかったかもしれません。ぜひ、本紙の各審査員の先生方の講評文をお読みください。上演校の皆さん、長期、長時間に渡る稽古、お疲れ様でした。そして充実した最高の発表、ありがとうございました。そして最後にこのような万全の発表の機会を与えてくれた、長崎県の皆さん、本当にありがとうございました。









【最優秀賞(文部科学大臣賞・全国高等学校演劇協議会会長賞)】

☆大阪市立鶴見商業高等学校
 趙 清香作「ROCK U!」

【優秀賞(文化庁長官賞・全国高等学校演劇協議会会長賞)】(上演順)

☆長野県丸子修学館高等学校
 フランツ・カフカ作『変身』他より
 羽場小百合
 +丸子修学館高等学校演劇部脚色
 「K」

☆北海道北見北斗高等学校
 北見北斗高校演劇部・新井 繁作
 「ちょっと小噺。」 

☆沖縄県立八重山高等学校
 宮古千穂作
 「0 〜ここがわったーぬ愛島〜 」

【優良賞(全国高等学校演劇協議会会長賞)】 (上演順)

☆宮城県名取北高等学校
 安保 健+名北演劇部作
 「好きにならずにはいられない」

☆栃木県立さくら清修高等学校
 岩渕 誠・大島千怜作
 「自転車道行曾根崎心中」

☆瓊浦高等学校(長崎県)
 劇団四季文芸部作・たなか浩太郎脚色
 「南十字星」

☆広島市立沼田高等学校
 朽木 祥作『八月の光』(偕成社刊)より
 黒瀬貴之 翻案・再構成
 「うしろのしょうめんだあれ」 

☆高田高等学校(三重県)
 西尾 優作
 「マスク」 

☆東京都立東高等学校
 三輪 忍作
 「桶屋はどうなる」

☆徳島県立城ノ内高等学校
 大窪俊之作
 「三歳からのアポトーシス」

☆島根県立出雲高等学校
 伊藤靖之作
 「ガッコの階段物語」

【創作脚本賞】

☆「ROCK U!」の作者
  趙 清香氏 


【舞台美術賞】

東京都立東高等学校
 「桶屋はどうなる」

【内木文英賞】

☆栃木県立さくら清修高等学校

以上

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