タイトル   復刊第90号(静岡大会特集号)Web版

6.全国大会を観て         伊 藤  大  

 皆さん、本当にお疲れさまでした。  実を言うと私が高校演劇とじかに関わったのは今回が初めてでした。浜松に来て、長年高校演劇のために力を尽くしてこられた先生方や経験豊富なほかの審査員の方々とお会いして、改めて「本当に私なんぞでよろしいんでしょうか?」と思ってしまいました。幾人かの方には実際に聞いてしまったくらいです。「いいんですよ」とのお言葉を励みにしつつなんとか大会に臨ませていただきました。終わってみれば確かに先入観もなかったので、その点ではかえって新鮮で良かったなと思っています。
 また、地域演劇の演出をさせていただいた経験などから、私なりにアマチュア演劇に対する考えや関心を持っていましたので、その幅を広げるという意味でも幸いな機会を持つことができました。  大会前に私が自分なりの基準としていたのはこういうことでした……どれだけ演劇を楽しんでいるか、そしてどれだけ高校生の皆さんが「自分で考え、自分の身体を通 して想像し、仲間と作っていくこと」を大事にしているか。
 演劇を楽しむことに関しては、どの学校の方たちも十分喜びを感じながら作品を作ってこられたと思います。それはとても素晴らしいことでした。これから先、演劇を作り続ける方も、あるいは観る側に回って演劇に参加し続ける方もいることでしょう。そのどちらになったとしても、演劇は楽しむことがいちばん大事です。作品が良ければいいほど、それに真剣に取り組めば取り組むほど演劇は楽しいものです。今回参加された皆さんはその資質を十分持っています。いつまでも演劇を楽しんでほしいと思います。
 「自分で考え、自分の身体を通して想像し、仲間と作っていくこと」。 これについては書きたいことが沢山あるのですが、きっときりがなくなってしまうので今回は演技のことについて少しだけ述べてみようと思います。
 これまで私が見聞してきた「いい稽古」では、最初のうち演出家はたいてい俳優さんにとってヒントになることしか言いません。台本のストーリーそのものは読めば誰にでもわかります。けれども、何がドラマ(とりあえず「劇的なこと」といっておきます)なのかは、ちょっと注意深く組み立てていかないとわかりません。それを全体的に組み立てるのがいってみれば演出家の役割なのですが、ただ説明しただけではやっぱり台本をなぞるのと変わりなくなってしまいます。そこで「こういう状況のなかで、こういう行動をとってきた(そして後にこういう行動をとる)人物が、こういう人に、こういわれたら?」と、まあ全てこんな風に言うわけではありませんがヒントを出し、俳優さんに「あ、そうか!」と発見していってもらうのです。こうして俳優さんが「自主的に」どんどん発見をものにしていけば、お芝居がとっても奥行きの深いものになっていきます。
 そうしたら今度は「自分の身体で想像」します。これは例を挙げてみましょう。お芝居のなかに「悪い人」がでてくるとします。そうするとついつい「悪そうな」演じ方をしてしまいがちですが、でも現実に「悪そうな」人というのは、「悪そうに見せる」ことが喜びだったり必要だったり得だったりする人たちで、現実の悪い人たちのあり方はもっといろいろです。むしろ、悪いことになったのは結果 であって、その人自体は「正しい」と信じていたり、自分を守りたいと感じていたりすることの方が多いのではないでしょうか?それを身体を通 して想像してみるとどうでしょう。「悪い人」が実は正義感に燃えていたり、ビクビクしていたりする事に気付くはずです。そこまで感じられれば、「悪い人」がちゃんと「人間」になっていきます。そして生きた「人間」が関わり合っていくことで生きたドラマが誕生するのです。もっともっと想像力を膨らませて下さい。そうすればひとの気持ちもきっとよくわかるようになります。衣裳や小道具を作るのと同じように、「役作り」もうんと楽しんでほしいと思います。
 そして「仲間と作っていくこと」。 演劇は一人ではできません。今回出場された皆さんはとてもよくわかっていらっしゃったようです。これからも仲間を大切にがんばっていって頂きたいと思います。  とエラそうに書いてはみましたが、私が高校生のときに果たして今回の皆さんほどのことができたのか……とてもとても。何をとっても今になってやっとわかってきたことばかりです。まだまだ勉強しなければ!お芝居を作っていくなかで日々喜び、悩んでいるという点ではプロもアマも変わりません。本当です。
 最後になりましたが、今回も演劇を通じていろいろな方にお会いすることができました。特に、高校演劇に携わっていらっしゃる先生方の熱意には本当に頭が下がります。いろいろなことを勉強させていただきました。改めて感謝の言葉をのべさせていただきたいと思います。本当にありがとうございました。
    (演出家・劇団青年座)