復刊92号  WEB版



都道府県だより

北海道高校演劇の ─歴史・現状・課題─ 櫻井 幹二
 北海道は広いと言われます。確かにその通りで、その面積は九州、四国を合わせたよりなお広く、函館、稚内間の距離はほぼ東京、青森間に匹敵します。しかし、人口は五五〇万余、千葉県あるいは兵庫県一県程度でしかありません。しかもその三分の一が札幌市に集中しています。北海道高校演劇を語る上で、この広さ、そして札幌への一極集中による過疎過密の状況をまず知っていただきたいのです。
 北海道には三四〇弱の高校がありますが、高演協加盟校は一三〇校。つまり、演劇部が活動している高校は全体の四割弱ということになります。その一三〇校が全道一三の支部に分かれ支部大会をおこないます。ですが、例えば札幌を含む石狩支部大会の参加校は四六校、一週間ぶっ続きの日程ですし、一方、留萌支部の加盟校はわずか一校、隣接の上川支部との合同開催です。小規模校ゆえ大会参加の予算すらままならず、指導者もおらず、生の観劇機会にも恵まれない広大な地域を抱える「郡部」と、過密にあえぐ「都市部」の落差。高校演劇の底辺拡大は北海道においてこそ重要だと私達は考えていますが、何とかこの困難な状況を克服する手だてはないかと模索しているところです。
 さて、北海道高校演劇大会は昨年、五〇回の節目を迎えました。その歴史の詳細は記念誌「北海道高校演劇の五〇年」をご覧になっていただくとして、やはり五〇年の歴史の重みを感じざるを得ません。そもそも、その出発が教職員組合の主催であったということも驚いてよいことですし、高演協=高文連という活動形態をとり得たことも他府県とは違う点かと思います。北海道高文連演劇専門部は現場の私達(の先輩)が、創り、育て、守り、発展させてきた組織であるという意識を私達は強く持っています。
 ところで、その歴史を担い、全国大会でも優れた舞台を創ってきた先輩達も次々と現場を去られています。本山節弥、橋本栄子、菅村啓次郎、森一生等々。私達は北海道高校演劇草創期からのメンバーを第一世代(例えば本山先生)、発展期のメンバーを第二世代(例えば菅村先生)、その教え子世代を第三世代とたわむれに呼んでいますが、その第二世代までが、今、現場を去られているのです。優れた先輩達の残していったものをどう継承し、どう発展させていくのか、これも私達の大きな課題です。
 北海道高校演劇の伝統というか特徴というべきものに「顧問創作」の多さがあります。「高校演劇は顧問と生徒の共同作業」(内村直也先生の教え?)という意識の現れと思いますが、これが優れた舞台を数多く生み出したことは事実です。反面 、「生徒創作」に弱さを持っていることを認めなければなりません。脚本の書き手が顧問か生徒かということではなく、顧問と生徒が一緒になっていかに優れた舞台を創造していくか。部活動のありかた、顧問の育成を含め、歴史の重みに耐えつつ、新たなスタイルを求め、もがき苦しんでいるところです。
 地域の高校が学校の垣根を越え、一つの舞台を創る合同公演。他県の例はあまりわかりませんが、これも北海道の特徴かと思います。札幌、釧路、上川、室蘭、南空知等たくさんの地域で取り組まれています。苦労は多いのですが、その効果 、成果は絶大です。コンクール形式の大会とはまた別の実りをもたらすこの合同公演も大切に育てていきたい私達の財産です。  「骨太でたくましい」と評されてきた北海道高校演劇ですが、その風土性はあくまで大事にしつつ、しかしそれに拘泥することなく、高い普遍性を持つ「北海道らしい」舞台を創り続けたい。今の私達の率直な気持ちです。 (北海道高文連演劇専門委員長)