復刊93号  WEB版


審査員講評        高橋 美穂

 福岡からの帰り道、ズッシリと中身の詰まった十一個のお土産が私の心にありました。フレッシュな創造性と感受性に満ちた舞台に出会えた事に感謝を込めて各校へのショート・メッセージをここに記します。
 「アルプスの少女」は、叶って欲しいナと展開を一緒に期待できて爽やかな夏の後味を覚えました。テンポの良さに加えて登場人物の関係性がもっと見えたら、更に、パワーアップすると思います。
 「私場所ワタクシバショ」は、教室でもう一度逢いたいというフレーズが私の中に色々な意味を持って残りました。自分探し、誰か探し、居場所探し、これからも探し続けていって欲しいです。
 「銀河鉄道の夜への旅」は、台詞、歌共に、発声が非常に美しかったです。言葉の響き合いを誠実に伝えようというこだわりを強く感じました。思わず賢治の作品を読み返して、味わいたくなりました。
 「ぼくんち」は、舞台上で一人一人が素晴らしく ”子供“を生きていて驚きました。演技を感じさせない技術は、プロ顔負けな感じ。脚本、演出、出演の廣井直子さんの才能とイメージ世界に、静かにストレートパンチを喰らいました。
 「BANKA」は、舞台上に流れる七夕という季節の取り扱いに心地良く乗せられました。細かな所まで作り込んでよくまとまっていましたし、女子高生の等身大の息遣いが、近く、可愛らしく、届いてきました。
 「はるふぶき」は、とにかく出演者達の一糸乱れぬ姿に、舞台上で起きる偶然のブレみたいな瞬間も演劇の面 白さだと考えると、そういう事が起きる余地を残す事で、また違った、自由な美しさが出てきそうな気がします。
 「やっぱりパパイヤ」は、ポップなセンスに満ち、緩急のつけ方などはプロの役者の型を感じました。自分達だけの型ももっと探してみると面 白いかなと思います。
 「hush!!」は、自分達の身近にある事からテーマを掘り起こして舞台に載せた丁寧な作業を感じました。プロフィール通 り、元気にワイワイと集まって創るという、演劇創りの楽しい一面を見せてもらいました。
 「ばななな夜」は、あの会場では部分的に声が届かないのが残念でしたが、時間の流れも、会話も、とにかく、”間“という事を忠実に追い続け、ヒタヒタと重ねてゆく感じが面 白かったです。
 「七人の部長」は、実に緻密に創られ、演じられていて、高度で上質な演劇性を感じました。セットも小道具も上手く使っていましたし、台詞と身体表現が一致していました。プロフィールにあったように、「飛ぶように過ぎてゆく毎日」っていいモノですよね。
 「坂道の夏の日」は、ラストシーンの予感に怯えながら観ましたが、恵まれたセットの中で、扱いの難しいテーマや、方言に真摯に挑戦している姿に感じるモノがありました。
 三日間、審査をするという前提をもって舞台を観なければならない事は、想像以上に心苦しい作業でした。結果 うんぬんよりも、自分達がやり遂げた舞台の過程から何かを持って帰ってくれている事を願って居ります。
 又、ワークショップで生徒さんから、どうすれば演技が上達するかと聞かれて困った私は、自己弁護を含めて、上手さを追うよりも大切な事があるハズと答えました。技術は確かに表現の手助けにはなります。でも演劇は人や物事との関係性を表現してゆくので、まずは自分にまつわる人や物事を雑に扱わず、丁寧に関わってみる事から心掛けてみて欲しいのです。そして、自分の人生の演出家は自分自身でしかないんだから、自分の価値感や美学を磨いておく事。いつのまにか魅力的な人になって、魅力ある表現も出来るようになると信じています。 (俳優)