復刊95号  WEB版


特集3 全国大会では初の試み:教員を対象とする分科会

 第五分科会 表現教育について 吉倉 一雄
 演劇部の顧問として、様々なドラマの現場に立ち会いました。ここでいうドラマとは、舞台上のものではなく、そこに至る過程で展開した生身の部員達のドラマのことです。一つの作品を作り上げていく中で、意見の対立があったり、感情のもつれがあったり、その結果 、部員が辞めていったり、またいつの間にか戻っていたりと、思い出として浄化されるには生々し過ぎるドキュメンタリーです。しかし、その摩擦の中をくぐりながら、部員達がその身につけていくエネルギーをみていると、幾多の苦難にもめげることなく、一つのものを共同で作り上げていく演劇の「教育的効果 」を感じます。もちろん、それは演劇に限ったことではないでしょうが、演劇の場合には、役者や演出或いは作者だけではなく、音楽や音響効果 、舞台美術、衣装などなど、様々な分野を集合させた総合的な表現として位置づけられるのではないでしょうか。  それとともに、演劇の持っている手法も、もっと広く「教育」の中に活かせないかと考えた時に、現代という時代が重なってきます。  最近の子供たちは、他者との関係性を結んでいくことが不得手になってきているのではないでしょうか。人は、様々な関係性を結びながら、そこに自分の居場所を見つけていくものです。或いは、その置かれている環境、状況の変化の中での対応が、うまく取れなくなっているということかもしれません。家族や学校のあり方、地域社会の変化により、子供達の存在の仕方にも変化が迫られていることは確かです。多種多様な価値観の中にあって、「表現」することの必要が増え、人々は、新たな方法・手段を身に備えることを義務付けられるようにもなりました。そうした現状を考えると、教育の中に演劇の基本構成要素である「表現」を取り入れて、意識的に、自己発見や自己形成、そして、他者の発見というものをおこなっていくことも必要であると思われます。
 たとえば、親子の関係があり、そこに断絶という難しい問題のある状況で、一体、どのようにしたらよいのかを想像し、いわば、シュミレーションを重ねていく。当然のことながら、これは、演劇という疑似体験状況での行為なのですから、いくらでも、繰り返し、練習することができます。 もちろん、「演劇」が万能薬で、全ての症状に対して即効性があるというつもりはありません。しかし、現在、私たちの関わっている演劇の可能性を考え、教育現場の中で様々に活用していくことを検討する必要はあるのではないでしょうか。 全国大会では、この「表現教育」の分科会を設定します。多くの方の参加をいただきたいと思います。  (神奈川県立横浜日野高等学校)