復刊96号  WEB版


舞台美術講評 土屋 茂昭

●「いってきます!」 私立滝高等学校/全ての場面を公園にもって来たことが面白い。4段の高さの二重からの登退場に複数の方向性とバリエーションがあり舞台に広がりを持たせている。また、緑の生木に照明でアンバーをあてることで季節の変化を効果的につけていた。照明変化のテンポも気持ち良い。舞台間口に対応する透かしの格子垣根も丁寧に作ってあった。

●「今夜はすき焼き(仮)」 北海道池田高等学校/袖で間口を狭め小道具のみの飾り。スーパーの事務所の感じは選択した小道具に良く現れていた。全体にもう少し前に飾ると芝居も台詞も客席に届きやすかった印象がある。それと、バックが襞のある黒引き割り幕になっていたが声の返りを考えると低くて良いのでパネルを立てた方が良いと思う。

●「九郎〜源義経流亡誌」 私立麻布大学附属渕野辺高等学校/花道、客席通路と劇場全体を大きく使用していたのが印象的。ただ少し散漫になったきらいがある。衣裳は、大変造りに凝っていて苦労の跡が見受けられるが、装束の中途半端なリアルさは中身の真実性を薄めることがあるので省略のアイデアと工夫がほしい。

●「めろん」 県立岩国総合高等学校/夏の日本家屋の居間を大変リアルで精緻に作った装置。廊下の向こうに葦簾越しに見える庭での時間経過表現等、細部に非常に丁寧さが見られる。小道具の父人形に哀愁があり、扇風機ひとつの使い方にも家族関係が良く現れている。床のエリアも敷物で表現上の空間設定が出来ていた。

●「生きっぷし」 大谷高等学校/幕開きの、断崖で孤立した、ナナの後ろの白布から顔だけ出した装置には、ハッとさせる意外性があったが、転換後の垣根格子とツタコードの装飾のある低い高みの台だけで室内と公園の使い回しには少し無理が見られる。類型的な母親像を人型の切り出しにしたのは面白い。

●「フラスコ・ロケット」 私立久留米大学附属高等学校/素直な演技とあいまった、シンプルだが清潔感のある装置だった。棚類の後ろの白い1.8m高のパネルは、化学室の空間の切り取りに成功していたし、自然な演技を助ける声の反射パネルとして有効であったように思う。人体模型には愛嬌があった。

●「チェンジ・ザ・ワールド」 県立小名浜高等学校/装置は二組の白いブロックだけではあるが病室と屋外をうまく演出的に使い分けていた。暗転シルエットの使い方をイメージとして効果的に挿入していたが、部分的には、もう少し整理してテンポアップしたほうが望ましい。キスの展開となる、二度目の舞台からはみ出た巨大な月の表現に演劇的なリアリティーを感じた。

●「まじめにやれ」 県立阿南養護学校ひわさ分校/理念の垂れ流しを痛烈に批判した舞台と思うが、観客に意図を伝える力が弱いと感じられた。台本を読めない観客に文字情報で伝えるのもひとつの方法と思うが。一方その内容を国旗などの原色とカジュアルな小道具ビジュアルで表現していた点にセンスを感じる。

●「夏の庭〜風に吹かれてかすかに揺れて〜」 都立第四商業高等学校/装置は、二つの白いブロック高みと丁寧に作られた透かしデザイン格子と塞がれた二つの面を持つ六個のBOXで、移動と二つの面を回転する事で各場面を構成している。場面ごとに移動はするが少々変化に乏しかった。ただし、工夫とチャレンジが感じられた。

●「桜井家の掟〜The Rules of the Sakurais 〜」 県立薬園台高等学校/装置は、教科書どうりであるが、壁下の巾木、次室の台所や階段室の窓、窓外、玄関へ通じるドア外の廊下など。室内を大変丁寧でリアルに作り込んである。また、家具の選択にも配慮が感じられた。これだけ多い小道具を引越し間際の状態へと短時間で転換する手際にも感心。父方と母方のダンボールの別々のかたまりに寂しさがあった。

●「恐ろしい箱」 県立安中高等学校/黒幕バックで引き割り幕で奥間口を狭めてある。その前に敷かれた約3.6m角の黒いカーペットが演技エリアであり、これが閉じ込められたエレベーターと設定されている。面白い着想ではあるが、エリアは、もう少し小さくして箱外を暗く、敷物を明るくした方がより閉鎖感が出たのでは。敷物の外での演技は、ルール違反に見えた。