復刊98号 福井(鯖江)大会特集号  WEB版


心の泉より湧き出る文化よ大河となり海を成せ
全高総文祭〇三福井大会へようこそ  吉川 光三

本年度、私たち福井での開催となりました第二十七回全国高等学校総合文化祭は、八月八日から十二日までの五日間にわたって行われます。総合開会式とパレードを皮切りに、演劇をはじめとする全十八部門と三つの協賛部門が県内各地で成果発表を展開し、さらには米中韓三カ国の高校生との国際交流が図られることとなっています。
中でも演劇部門は歴史ある部門であり、このたび第四十九回全国高等学校演劇大会として開催されます。会場は鯖江市文化センターをお借りし、八月七日より本格的に準備・リハーサルを始め、十日より十二日までの三日間にわたって、全国から選ばれた十一校が上演します。
鯖江市は福井市に南接した、質朴ながらとても味わいのある町で、峰々より流れを集めた日野川が近くに横たわり、ゆったりのどかな田園風景が広がっています。東洋のシェークスピアとも呼ばれ、近世演劇の大家として名を残す、あの近松門左衛門はこの福井で生まれ、鯖江の地で幼少年時代から思春期までを過ごしたと伝えられています。まさに、近松の感性の土壌を育んだ土地として、越前福井そして鯖江の風景を眺めていただくならば、いくばくかでもそれらしい風情を感じ取っていただけるかも知れません。近松ゆかりの地である鯖江市がこのたび、高校演劇全国大会の開催地となりましたことに、浅からぬ御縁を感じる次第です。
さて、全高総文祭福井大会テーマ「心の泉より湧き出る文化よ 大河となり海を成せ」は、私たちのふるさと福井の自然豊かな風土と歴史を背景に、若く溌剌とした高校生たちがそれぞれの心に抱いた熱い思いを芸術表現を介して分かち合い、さらにはそれらの共感が大きな流れとなって、広大な海原たる世界へ、そして未来へと展開されていくことを祈念したものです。それはちょうど、越前の山々に抱かれたいくつもの小さな泉や沢から湧き溢れた流れが、やがて大河となり、日本海へと注がれていくイメージと重ねられています。演劇をはじめ、高校生のさまざまな文化活動が日々の小さな積み重ねから、やがて大きな潮流を創り出し、次世代文化の形成へとつながっていくことを期待しての大会であります。
どうか、皆様の暖かいご理解とご支援を賜り、福井大会の成功に向けて、盛り上げていただきますようお願い申し上げます。
ところで今回の演劇大会においても、北海道・東北・関東・中部・近畿・中国・四国・九州の各ブロック大会で選ばれた、優れた作品を披露していただくこととなります。この十一校が全国大会の舞台を踏むこととなるまでの経緯には、十一校だけでなく全国二五〇〇の高校演劇部の、おそらくさまざまな苦しみや喜びが織りなされてきていることと思われます。舞台で繰り広げられるドラマの後ろには、またもう一つの、そして生徒たち一人一人の幾つもの日常のドラマがあることを大切にしたいと思っています。
部内外での人間関係に傷ついたり、傷つけあったりする生徒や、途中でどうにもならない事情で部活動を去って行くしかない生徒、それを引き留めようと生徒たちの悩みに密かに深く関わる顧問たちの、また報われにくい日々の地道な努力…。
こうした生徒たちの心の痛みや喜びに共感し、ともに寄り添いながら活動をすすめていくところにこそ、高校演劇の深い魅力と輝きがあるのだと思われます。いたずらに技術に走るのではなく、人間としての成長を演劇という芸術形式を通して促進するという側面に、教育の本質を見ることができるからこそ、高校演劇は独自の世界を創造できるのだと思われます。
そうした意味で、私たち福井県の高校演劇は、自分たちの県大会だけでなく、中部ブロック大会においても、生徒たちの生徒たちによる主体的な演劇活動をめざし、生徒実行委員会組織による大会運営の歴史を積み上げてきました。そして今回の全国大会では、生徒・顧問が一体となって実行委員会を組織し、人手が不十分であることはよくよく承知の上で、知恵と熱意で乗り越えていこうとしています。そして、生徒主体の大会を実現するという意味でも、生徒講評委員会活動を立ち上げ、試行ではありますが、より高校演劇の魅力を深める工夫をしていこうとしています。
全国の高校生の皆さん、先生方、関係者の皆様方、たいへん地味で小さな会場ではありますが、思いはぎっしりつまっている今度の鯖江での全国大会に、どうぞふるっておいでいただきますよう、心よりご案内申し上げます。
最後に、関係者各位のこれまでのご厚誼に深謝申し上げ、またこれからもさらなるご指導、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
(福井県高文連演劇部会長)