復刊99号 福井(鯖江)大会特集号  WEB版


乞御容赦、 やぶにらみ的寸評  酒 井  稔

 どの場合でも、上演される舞台に順位を付けて評価することは、本質的に無理があると思います。まして各ブロックから選ばれて来た代表作品に優劣をつけなければならないのは、かなり苦痛を伴なう作業です。しかし大会の性質上これは必ず為されなければならぬ過程であり、これを通して高校演劇の発展が在ったことを思えば、個人的思惑などは超えて責が果たされるべきと思われます。こんな思いで任に当たった審査員として、その視点から最優秀、優秀等の各賞に選ばれた各校について独断的な寸評を試みてみたいと思います。
 「伊達緑丘高校 ?りんごの木?」は、現代の高校演劇の一つの到達点を示す作品だったと考えます。集団演技の見事さ、細部まで神経を行き届かせた表現、緩急があり、力点をはっきりさせた巧みなリズム、現代の課題を突くメッセージなど、さまざまな点で力量の確かさを見せてくれる舞台でした。これらを支えているのは身体訓練の質の高さに在ると考えたのは私一人ではありませんでした。ただ語り部の使い方の類型性、りんごの木のアクティングエリアの曖昧さ、など問題点が皆無であった訳ではありません。だが聞くところによると、地域社会との繋がりが強く、地域に支えられて演劇部の活動が行われている由、これも高校演劇の望ましい在り方の一つを示しており、総体的に教育の一環としての高校演劇の一つの典型を見る思いを持たされました。
 「宇都宮女子高校 ?美術室より愛を込めて?」は、高校生の心理がよく抉られており、生徒創作としては実に見事な出来映えの台本でした。劇のリズムを生み出すことが巧みで、装置も要点が押えられながら、適当な省略も利き、安心できる出来上りでした。紗幕に画面を写す方法もおもしろいと思われました。ただ画面の写った紗幕の後ろで転換が行われているのが透けて見えたのは、意図的にやられていたものとは思いますが、むしろ逆効果であったように思えます。音楽の入れ方にやや首を傾けるところがあったのと、携帯電話のベルが上手から響いたなどの細かい点での疑問はありますが、全体的にはよく出来た舞台であったと思います。
 「三本木高校 ?贋作マクベス?」は痛快な作品でした。よくぞここまでシェークスピアの作品を手許に引きつけて描いたと拍手を送りたい気持ちです。演技もハチャメチャなように見えながら、えも言われぬおもしろさがあり、野放図さがかえって効果を出していたようにも思えます。これは作者のキャラクターがそのまま投影された作品の感が強く、作者が役者として出演すればもっとおもしろくなったのではないかとさえ思えました。ただ装置の幕の使い方は、折角シェークスピアの時代を彷彿させるような幕を吊ったのであれば、もっと多様に立体的に使う方がよかったのではないかというのが、審査員の多くの意見でした。この作品を観て、シェークスピアに親しみを持った高校生も多いのではないでしょうか。
 「丸亀高校 ?どよ雨びは晴れ?」は前記 ?りんごの木?とは別の観点から、やはり現代の高校演劇の到達点を示した作品であったと思います。ラスト近くの ?すき焼き?の文字を強烈に見せるため、わざと黒板の向きを常識から外れたような位置にセットしておく、とか、あまり観客に顔を見せないような角度で座っていた配役が、後で顔を見せた時の表情の見事な効果とか、その他さまざまな点の心憎いばかりに配慮された演出は、高校生の域を脱しているとさえ思わされました。既に専門演出家の目に近づいているような錯覚すら覚えたほどです。四国ブロック大会、四国高校演劇祭の段階よりさらに向上していた点は、大きく評価してよいと思います。
 審査員特別奨励賞を受賞した「身延高校 ?モンタージュ〜はじまりの記憶〜?」は高校生らしい素朴だが、清潔な感じのする好感の持てる舞台でした。演技も素直でメッセージもよく伝わりました。ただ暗転が長過ぎたのが残念に思えました。この作品は、四十回大会(松山市民会館)で法政大女子高校が?子供のバイエル?という題で上演しています。その際は、登場人物2人で劇を進行させていたと記憶しています。今回も二人のみで演じた方がむしろ効果的ではなかったのでしょうか。
 最後に受賞校以外でどうしても触れておきたいのは「薬園台高校?Leaving School?」です。実によい作品で、四場までの教師と生徒の対立と変化交流はすばらしく、息をのんで観ていましたが、五場の生徒指導部会教師の描き方が、デフォルメが強過ぎて類型的になったのが、惜しまれてなりません。教師の一面を衝き、現代アメリカを諷刺している点もよく判りましたがむしろそれが伝わりにくくなっていたようです。
 以上でやぶにらみ的な寸評を終わり、最後に、最近の四国の大会で最優秀賞を得たのが四国代表三回、東北代表一回について、審査員間の会話が示唆に富んでいたので転記しておきます。「都会の高校生はプロの舞台を観て、おもしろければすぐ真似る。プロの物真似では……」。―心して聞きたいものです。  
(全国高等学校演劇協議会顧問)